仙台高等裁判所 昭和29年(う)288号 判決
原判決は、被告人が肩書居宅で精米業を経営し昭和二十六年二月頃から八戸地方米穀小売販売企業組合階上販売店の責任者として勤務中、同年二月二十三日八戸地区警察署長から被疑者金共日に対する食糧管理法違反被疑事件の証拠品として保管方依頼をうけ大豆約四百十一瓩を預り保管中、同年十一月中旬擅にこれを八戸市大字八幡町金沢慶蔵宛六十瓩入一俵当金三千円で売却して業務上横領したとの起訴の事実につき、「被告人が偶々八戸地区警察署長から被疑者金共日に係る食糧管理法違反被疑事件の証拠品として大豆の保管方依頼をうけこれに応じて保管に当つていたところ、これを擅に他に売却処分したものであることは当公廷における被告人の供述と司法警察員の報告書によつて認め得るところ、当時その保管占有が米穀販売業兼精米業者である被告人の本来継続従事するその社会的地位(業態)においてなされたものであることの証明がないので、これを被告人が擅に売却処分したことが(違法行為ではあるが)その業務上横領罪に該るとは採証上認定し難い、よつて訴因の変更を命ずることは適当でないと思料し、本件公訴事実中この部分については刑事訴訟法第三百三十六条後段によつて無罪の言渡をなすべきものとする」と説示して、無罪の言渡をしている。しかし、訴因又は罰条の変更につき一定の手続が要請される所以は、裁判所が勝手に訴因又は罰条を異にした事実を認定することによつて、被告人に不当な不意打を加え、その防禦権の行使を徒労に終らしめることを防止するにあるから、かかる虞のない場合、例えば業務上横領の起訴に対し単純横領を認定する場合の如く、裁判所がその態様及び限度において訴因たる事実よりもいわば縮少された事実を認定するについては、敢えて訴因又は罰条の変更手続を経る必要がないものと解するのが相当である。記録に徴すれば、被告人が事件の証拠品たる大豆の保管方依頼をうけてこれを承諾して保管したことが被告人の業務としてなされたものでないことは原判決説示のとおりであるけれども、右保管中の大豆約四百十一瓩を擅に他に売却処分した事実も原判決説示のとおり認められるのであるから、原審は何等訴因を変更するの要なくその認定の事実に単純横領の法条を適用して有罪の言渡をなすべきものであつたといわねばならない。されば、原審がこれと異る見解の下に無罪の言渡をしたのは、畢竟刑事訴訟法第三百十二条の解釈適用を誤つた結果訴訟手続上の法令違反をおかしたもので、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決中この点に関する部分は破棄を免れない。論旨は理由がある。
(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 佐々木次雄)